4年目のサツキマス [渓流と湖の釣り/IN THE FIELD vol.38]

天竜川のサツキマス

4年目のサツキマス

 

明け方、目を覚ます。
布団の脇にある小窓から、シトシトと雨の音が聞こえる。

少し肌寒い朝

それにも関わらず、娘は布団をかぶらず大の字になって眠っている。
起こさないように、そっと布団をかけた。

いつもと変わらない朝に加え今日はゴミの日

昨夜出し忘れたゴミ出しを、朝方、家族を起こさないようにひそかにこなす。

これで憂いなし、心置きなく家を出発することができた。

 

 雨
NIKON AW1 F5.6(優先) 1/160 ISO160(固定)

 

昨今はSNSの急激な発展により人の釣りの有り様が見てとれる。

僕が今の時期、異様な執念をもってして狙う遡上魚 (サツキマス)

この魚の釣果が投稿されているのを見ると嬉しく思う。
どこの川で、どの場所でなどは重要ではなく、この貴重な魚を狙い日々努力するまだ見ぬ同胞の姿が、一匹の写真や文章を通して見えてくる。
そして、それは度々途絶えかけるモチベーションを維持することに繋がっている。

釣れない釣り。
川の流れに立ち、その流れを見て思い、考え耽る時間はたっぷりとある。
そして、とある事を思いつく。
川の流れと人の世の流れは似ているのかなと。

流れの厚みが増すにつれ、底が見えなくなっていく濁り。
人が集まるにつれ、そこに存在する大きな意思と淘汰される個人の意思。

川の水を掬えば澄んで見える。
個人と個人で向き合えば理解し合える。

ニュースや新聞に極めつけはSNS、様々な情報や憶測が飛び交う世の中で自分の意思が勝手に捻じ曲げられる。
そんな感覚に陥ることは少なくはない。

何が真実かはわからないけど、その真実を都合の良いように捻じ曲げようとする意思の存在ははっきりとわかる。
そんな中で溢れる情報を一つ一つ真に受けるのではなく、自分の信念を支える添え木となるくらいに受けとめるのがちょうどいいんじゃないかと思う。

歩いて、投げて、巻く。
一連の動作の中でそんな事を考え、思っていた。

そんなことだから、なかなか魚と巡り会えないのだ。

 …

ポイントに降りた時に本降りだった雨も、2ヶ所目を回った頃にはすでにあがり…

 サツキマスの帰る川、天竜川
NIKON AW1 F5(優先) 1/100 ISO200

 

山界で眠る霧達を風がゆっくりと抱き上げる。
木が、森が、山々が深く深呼吸をはじめたようだった。
魚達の活性もきっと上がっているに違いない。

こんな山に囲まれたフィールドで釣れる遡上魚も乙だがそんなに上手くいかないのが、この釣りの難しいところでもあり魅力の一つでもある。

 

谷間の花
NIKON AW1 F3.8(優先) 1/320 ISO160(固定)

 

斜面の花が頭を垂れているのは、入渓時に僕が踏んだからではなく
きっと水滴による重み、もしくはそもそもこういう花なのだと思う。
水滴を身につけて、美しさが際立つ。

車を走らせ、向かった下流のポイントにはすでに川に立ち竿を振るアングラーの姿が確認できた。
かなり歩くことになるが、その下のポイントに向かうことにした。

天竜川の悠然たる流れが徐々に絞られ
次第に一本の瀬となって深みへと流れ込む

そんなポイントを、だだっ広い瀬頭からゆっくりと釣り下り攻めていくことにした。

選んだのはシンキングタイプのミノー

クロス気味にルアーをキャストし、沈めて流す。
時折、トゥイッチを織り交ぜ、ミノーが中層のレンジをキープできるように心掛ける。

流し切ったミノーはトゥイッチをしながら巻き上げてくる。
その途中、浅瀬でその魚は掛かった。

すぐに思った、浅瀬=ニゴイだと。
数日前にも似たシュチュエーションでヒットしたのがニゴイだったからだ。

期待する分、そうではないと知った時のショックがでかいので平常心を保つ。
僕なりの防衛術。

しかし、遠くで抵抗する魚体の側面がギラリと白く輝いた。
どうやらニゴイという検討は外れたようだ。

しかしここで喜んではいけない。
今年は虹鱒の当たり年。

きっと、虹鱒に違いない。
一瞬昂った気持ちを再び落ち着かせる。

足元まで寄せてきたその魚は突如激しいローリングをはじめた。
その様を見て、ようやく気づくことができた。

この細い糸の先に居るのが4年という歳月を費やして追い求めてきたサツキマスであると。

インスタネットを取り出し、一気に引き寄せて掬い上る。
念願だったサツキマス。
落ち着いてキャッチすることできたのは、皮肉にも今まで僕のルアーに喰らいついてくれたニゴイやウグイ、虹鱒達のおかげだった。

ネットに入れたまま流れの上流にサツキマスを向ける。
ナイスファイトを繰り広げた彼に呼吸を整えてもらい、撮影させてもらうことにした。

 

天竜川のサツキマス
NIKON AW1 F3.5(優先) 1/2000 ISO160(固定)

 

数枚、シャッターを切る。
この瞬間、自分なりの最高を切り抜こうと思案している時、水中にどっぷりその身をつけていた魚は颯爽と流れの中に泳ぎはじめた。

止めようと思えば止められたこの瞬間だったが、ここでこの魚を止めて何になるのかなと思い止まる。
彼、彼女等の旅はまだまだ始まったばかりで、そう思うと元気に走りだしたサツキマスを止めることは出来なかった。

でも、これでいいのだ

また努力を重ねて、会いに行けばいいと思えた。

 

 
天竜川に沈む夕日
NIKON AW1 F3.5(優先) 1/800 ISO160

 

帰宅して、妻に報告

「ゴミ出しした、良いことした結果だね」

まさにその通り

次のゴミの日も僕がゴミを出そう、そして釣りに行こうと思いました。

 

タックル

ロッド:anglo&company Paragon743
リール:Daiwa CERTATEvintagecustom2500
ライン:PE 22lb.
リーダー:Furoro 10lb.

カメラ
NIKON AW1

ロケーション
天竜川(浜松市)2017.03~05

 

Satoru Sasaki

PHOTO & TEXT

[IN THE FIELD] The 6th angler
佐々木 悟

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