標高日本一! 琴川ダムのイワナ・アマゴは微笑んだか?

カナディアンカヌーでルアーフィッシング


日本一の湖へ

最高に気持ちのいいナイトドライブだ。
眼下には甲州の夜景。頭上には満天の星とミルキーウエイ。
涼風が、収穫時期のブドウの、ほのかな香りを運んでくる。
そして、カーラジオからは「FM富士」。ご機嫌なBGMを奏でてくれている。
あとはワインディングロードを軽快に走り抜ければ、目指す山上のダム湖に到着だ。


甲州の夜景
▲ 甲州の夜景


早々にタヌキの歓迎をうけたあと、湖畔の駐車場に立つ。想像以上に肌寒い。
車の外気温計は15度を示している。

2023年の夏は記録的な猛暑というだけあって、8月も終盤だというのに、どこもかしこもうだるような暑さだけれど、どうやらここは例外のようだ。

カートップしているカナディアンカヌーのロープを解きながら、夜明けを待つが、本当はそんなに気持ちがせいてもしょうがないと、わかってはいるのだ。

今日一日、僕(編集部)の自由。
自由にカヌーを漕いで、自由に魚釣りをする。
久し振りの、僕だけの一日だ。

だから、「釣れても釣れなくても、そんなことはどうでもいい」と思ってはいるのだけれど、反面、なんだか、たくさん釣れそうな予感を感じている自分がいるのも事実。

もともと釣り人とは、そんなものだ。
「釣るための算段」を一応用意しているものだから、期待感だけはいつも大きく膨らんでいて、後から思い通りにいかない難しさに嘆いてみたり、たまたまうまくいけば、自慢げに仲間に話してみたり。。

で、結果が伴うのか伴わないのか、それは全く別の話なのだけれど、とりあえず、ここで、「今日の算段について」だ。

ここは、多目的ダムとしては日本一標高の高い湖だ。
どのくらい高いかというと、日光の「湯ノ湖」の標高と同じくらい高い。

まだ若い頃の話だから、もう、とっくに昔話なのだけれど、それは、7月の湯ノ湖でのこと。
「これだけ暑いと、中禅寺湖もそろそろ難しいかな。」などと、早めに釣りを切り上げると、湯ノ湖の様子を見てみようと上がって来ていた。

そして、スゴイ光景を目にしたのだ。
湯ノ湖のインレット、つまり湯川の流れ込みでのことだ。

湯川はそれほど水量が豊富という訳でもないのだけれど、それでも、冷たい、夏としてはかなり心地の良い水温の流れが砂浜の深みへと注ぎ込まれていた。

そんなインレットの傍らに一人のエサ釣り師が、ポータブルの椅子にちょこんと腰掛けて玉ウキで釣りをしている。エサはイクラの様だ。

と、見ているそばから1匹釣った。ヤマメ(多分ホンマス)だ。
しばらく見ていると、どんどん釣るし、既にフラシはかなり膨らんでいる。

魚は適水温を求めて集まっていると思われた。

「いつか、家族を連れて真似しに来よう!」この時はそう思ったものの、何年もモタモタしているうちに、今度は原発事故で、湯ノ湖も少しデリケートな湖になった。

そんな記憶が、今回の僕の行動のきっかけになっている。

山梨県、琴川ダム、乙女湖。
琴川をせき止めた多目的ダムで、イワナとアマゴが生息しているらしい。
事前申請さえすれば、カヌーを浮かべることも可能だ。


カナディアンカヌー
琴川ダムの堰堤


この湖を知ったのは、本当に偶然で、ネットでもあまり多くの情報は得られなかったけれど、ただ、「渓流、琴川の流れが直接、堰堤から注ぎ込まれる」、そんな風景の写真を見つけてしまった瞬間に、あの、湯ノ湖での記憶が蘇ってきたという訳だ。

流心を狙うならカヌーしかないと思われた。
イクラではなく、ルアーで。それもライトタックルで、のんびり数釣りができたら楽しそうだ。
事前情報は乏しいけれど、実釣すれば、色々と見えてくるだろう。

これが、「算段」。

後から思い通りにいかない難しさに嘆いてみたり。。はいつものことだ。


イワナ・アマゴは、微笑んだか?

カヌーでルアーフィッシング


最初はもちろん、堰堤下に直行した。

まずは、左岸側から静かにカヌーを近づけて、パープルのバッセル7gを白泡の中に放り込んだ。
この懐かしいスプーンを選択したのも、昔、福島県の小野川湖か秋元湖あたりで、夏に、ローボートからイワナを釣った時の記憶からなのだけれど、そうそう同じ様にはいかなかった。

堰堤下をくまなく探ったものの、全く反応がないのだ。
完全に想定外だったけれど、この時は、まだ、何とかなるとタカをくくっていた。

このダム湖、レジャー用途として一般に水面が解放されているエリアは決して広くはない。琴川の流れ込みから、ほどなくブイで区切られて行き止まりとなる。

それでも、今日は完全に「貸し切り状態」。ここは僕だけのものだ。
「堰堤で結果がでなくても、とりあえず一周、ぐるりと探り切れば、何とかなるだろう。
その後でもう一度、堰堤をやろう。案外、気温が上がってからのほうが、魚も集まるかもしれない。」
木陰にカヌーを滑り込ませると、そんなふうに考えながら、本日最初の休憩タイムだ。


ノンアルで休憩
▲ 朝のダム湖は、下界の暑さを忘れる程、快適だった。
  ビールではなく、ノンアルなところが、気合の入り方を物語っている!?


ここにはボート用のスロープがない。
船外機付きの船の使用は禁止されているし、レンタルボートもない。
また、満水時なら、岸からの立ち位置もかなり制約を受ける。
だから、カヌーや、カヤックを持ち込むことは、かなりのアドバンテージとなるはずなのだ。

僕のカナディアンカヌーは全長4mで、重量は約26㎏。
こいつを担いで、駐車場からの階段を一人で降ろしてきた訳で、そんなこともあっての、少々早めの小休止だった。

ここから先は、トローリングやハーリングの要領で、ぐるりと一周、スプーンを引いてみようかなどとも考えてみたけれど、やはりキャスティングで細かく刻んでいこうと方針を決めたところで、再スタートを切った。

水中には、なかなか面白いダイナミックな地形が多く存在していて、第一級ポイントを形成していたりする。
小さな岬なのかと思えば、その先端はかなり沖まで張り出していて、馬の背状のフラットなシャロ―エリアを形成していたり、その一方の側面が、崖状に一気に落ち込むブレイクになっていたり。

岸から釣っている分には、なかなか気づくことができない感じでも、透明度が高いので、カヌーなら水中の様子が良くわかる。

でも魚は一切見えない。。

別に大物を探している訳ではないのだ。
普通サイズのイワナやアマゴが、いや、もっと言うならチビ助でもいい。気持ち良さげにスイスイと泳ぐ群れが見えたって良さそうな、そんな場所であってもだ。


琴川ダム(乙女湖)


浅めから、水深10メートル位の所まで、色々と探りながらカヌーを漕ぎ進め、気づけば、もう一周していて、例の堰堤は目前だ。

そんな時、初めて小さなウグイのような群れとコイが数匹確認でき、ライズも一度だけ見ることができた。
一気に高まる生命反応だ。このタイミングで堰堤前に戻って来たのだ。

「きっとチャンス到来だ!」
と、思う気持ちもむなしく、やはり堰堤下は沈黙したままだった。

「こうなったら!」と、半ばヤケ気味に核心部へとカヌーを漕ぎ入れた。
流心はやはりイイ感じだった。

ダム湖の堰堤なので、直下でも水深はかなりある。しかし、流心部の脇には砂礫が堆積し、水底が見えるくらいまで浅くなっている部分が、カケアガリとなって流れの筋の方向へと伸びていた。
やはりポイントとしては悪くない。

ダム湖の表層水温は、かなり高くて23度。流入河川である、この琴川の水温は16度だ。
ここに魚が付かないはずはないと思えた。

左岸側から、中央付近の流心部までをカヌーを漕ぎ入れてしまったので、今度は一度、堰堤を離れたところから、遠巻きに右岸側に近づき、上陸した。

右岸の流れはその延長上にある岬の側面に当たって緩やかに渦を巻いて反転している。

ここでは、岸からでないと、なかなか気づくことができない、そんな情報もあった。
流れの当たるその岬の側面に添って、スプーンを引くと、時折、2センチくらいの小魚の群れが、スプーンに追われて逃げてくる。

残念ながらトラウトの稚魚ではなさそうだが、これは、大きな情報で、スプーンを追尾して来る群れと、逃げて来る群れには決定的な違いがある。
逃げて来るのは、警戒している証拠。追われたことのある証だ。

もう少しレンジを下げれば、結果がでるかもしれないと思い、深めだけに的を絞って、しばらく粘ってみることにする。

そして、本日初めてトラウトとの遭遇となった。
但し、10センチにも満たない様な小型のアマゴらしき魚がようやく1匹、スプーンに追尾して来た。
そして30分後位にも、もう一度。

でも、それで終わり。
あまりに渋い。どうしたら結果がでるのだろう。
というか、何故、結果が出ないのだろう。。


漁協の人

琴川の堰堤下(ダム側)


しばらく考え込んでいると、後ろから人の声が。
漁協のかただった。
カヌーを浮かべる釣り人を珍しく思い、堰堤上を巻いて、背後側の林道を歩いて来たのだという。

これは、ありがたい。釣れない原因の答え合わせができるとばかり、しばらく質問攻めさせていただいた。

わかったことは、いくつかあった。

まず、今年はひどい渇水で厳しいという。
例年なら、堰堤の高さ(水面までの落差)も30センチ程度なのだとか。
(僕がネットで見つけた堰堤の画像も、それが撮影された時、たまたま渇水だったということなのか、今日の状況とほぼ変わらない感じだったが。)

それから、数釣りする様な湖ではないということ。釣れればそれなりにデカイとのことだ。
だから、シーズンは春で、春には岸から狙うアングラーが、それなりにいるらしい。
今のシーズンは、釣れるとしたら、台風直後くらいだと言われてしまった。

琴川には、もともとイワナしか生息していなかったが、漁協(峡東漁業協同組合)で、イワナに加え、アマゴも放流するようになったとのこと。但し、具体的に、どの辺りに放流しているのか、この時点では残念ながらわからなかった。(後に知ることとなる)

あと、スモールマウスバスの完全駆除に成功するかもしれない。ということ。

スモールの駆除をしていることは知っていたけれど、どうやら、かなり本気のようだ。
僕の知る限り、スモールの完全駆除に成功している湖は、日光の中禅寺湖と、富士五湖の一つ、本栖湖くらいだけれど、こちらの湖では、地元警察も巻き込んで、きちんと、それなりの予算も割いて監視や駆除活動を行っているようだ。

「それじゃ、がんばって!」

漁協のかたが行ってしまったところで、僕は一つの大きな決断をした。


作戦変更

「よし!堰堤の上を釣ろう。」
「ダムの釣りは、春になったら、今度は岸からもう一度、他のアングラーに混ざってやってみればそれでよしとしよう。」

話を聞いて、弱気になったところも正直あったかもしれないけれど、朝からかなり丁寧に探ってこのありさまだ。この後、好展開が待っているとも思えなかった。

上の様子も当然、気になっていたし、やはり魚の顔は見ておきたかったので、ここは第2ラウンドに期待することにして、カヌーは撤収。カートップした。

そして今度は、念のために用意しておいたウェーダーを履いて堰堤の上に立った。
水温はやはり16度。
「川」というよりは「沢」という感じの上流域だ。


琴川の森


渇水の影響もあるのだろうけれど、水深は全体的にかなり浅く、膝上まで来そうな場所はなさそうだ。
小さな落ち込みとポケットの連続で、ルアーを引ける距離は、どこもかしこも、せいぜい1メートル程度。

まずはしばらく、メガバスのGH春蝉でテレストリアルの釣りを試すも反応がないので、今度はイトウクラフトのバルサ山夷50Sをチョイスした。

30分程度遡行してみても、魚からの反応が全く得られない状況が続いた後、退渓にはもってこいの場所があって、その少し上まで探ったところで、今日のこの川の状況からすれば、「大場所」と呼んであげてもいい様な、少しだけ、明るく開けた場所に出た。
ようやく少し遠目の落ち込みまでキャストできるという感じだった。

ベナベナのグラスロッドで、それでもできる限り細かなトゥイッチを意識してアクションを加えると、すぐにヒット。


琴川のイワナ
琴川のイワナ釣り
▲ 少しだけ明るく開けた場所で


20センチくらいの小さなイワナ。でも、本当に釣れて良かった。
今日の釣りはこれで満足。


乙女湖という湖

楽しい一日だった。
ただ、家に戻ると何だかモヤモヤしたものが残っていた。
堰堤下の渋さがどうしても解せないでいたのだ。
「毎年通える釣り場に成り得る。」と考えていたので、それがどうも引っかかっていた。

「ハイ、峡東漁協(峡東漁業協同組合)です!」

電話してみた。
すると、なんとなく渋さの理由が見えてきた。

第一に、「過去、乙女湖内にイワナやアマゴを放流した事実はない。」ということ。

それから、「琴川へのイワナ、アマゴの放流は、ダムより下のみで、インレットとなる堰堤より上流域に関しては、もう5、6年間、放流がない。」ということ。

「堰堤の落差が大きくなることも多く、ランドロックの遡上と再生産は恐らくない。」ということ。

そして、またこの話が。。

ここ数年の間、山梨県漁連(山梨県漁業協同組合連合会)及び、峡東漁協(峡東漁業協同組合)で、乙女湖のスモールマウスバス駆除に注力していて、ここに、かなりの予算が割かれているということ。
ワカサギが増えてきているという。

概ね、このようなお話だった。


乙女湖


琴川ダムの完成は、2008年だから、完成から15年。乙女湖はまだ若い湖だ。

ネットで「山梨県 漁場図」で検索してみると、その地図上に、乙女湖は存在していない。
本来、そこにあるはずの、「琴川と、その支流との合流点」には、丸印で囲まれた、「除外区域」の文字を確認できる。
要するに、ダムの完成を見るまでは、漁場として認められていなかったエリアということだ。
(そろそろ地図の改訂はお願いしたいところです。)

放流活動が行われなかったのには、そんな事情もあってのことかもしれないし、スモールマウスバスが入っている内は、湖内へ放流してみようというモチベーションには繋がらなかったのかもしれない。

漁協のかたは、僕との通話の最後に、「スモールの駆除は成功しそうな状況にあります。完了すれば、今後、湖内への放流活動も検討してみたい。」と、付け加えてくれた。

15歳のうら若き乙女は、「決してスレている訳ではなかったのだ」とわかって、とりあえず、安心、安心!
今後に期待したい湖だ。

(even)


DATA

・乙女湖水温:
 表層:23度
 水深5メートル:21度(ダム管理事務所調べ)
 水深10メートル:12度(ダム管理事務所調べ)

・琴川水温:16度

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