え?バス、釣れんのかえ?

宮崎県綾南ダムのバスフィッシング

宮崎県綾南ダムのバスフィッシング


最近、バスを釣っていなかった。というか、バスだけが釣れていなかった。

宮崎県綾南ダムのバスフィッシング

シーバスは釣れる(何故かバスタックルの時に限り)

宮崎県綾南ダムのバスフィッシング

ニゴイも釣れる(バス狙いだが…)

宮崎県綾南ダムのバスフィッシング

そして、ラバジに鯉まで掛かってくるが、やはりバスだけが釣れない。
何年もバス釣りから離れているうちに、バスだけが釣れなくなった。

インターネットで色々調べてみると、どうやら日本全国的にあまり釣れていないらしい。
理由は様々言われている。
バスが生態系の中に完全に組み込まれて適正数まで減った?
新しい農薬にやられた?
バスの伝染病が流行っているのでは?
様々な説が出ているが、どれも決定的な証拠に欠けているので、つまるところ釣れなくなった理由は誰にも分からない。しかしながら、こちらにもバスを狙わざるを得ない事情があるのだ。

宮崎県綾南ダムのバスフィッシング

中学生の頃に初めて買ったコレ、思い出のレトロリールが出てきてしまったのである。
欠品部品を組み込み、ボールベアリング追加などの手直しを経て、試し投げしてみると、これが結構飛ぶ。
バスが釣れていないのなら、もしやと思って中古釣具の販売サイトに検索をかけてみると、出てくる出てくる。
中高生の頃使っていたミリオネアマグサーボや、当時高嶺の花で全く買えなかったABUの丸形リールなど、思いつくままに数点購入してしまった。

思えば私が中高生だった頃、バスの生息数はとても少なく、10回釣行して釣れるのは一匹程度。最初期のバスブームの頃だったけど、釣れないのは普通だったのである。

ならば、その頃の気分に戻って、オデコすらも楽しんでやろうではないか。

そう決心してゴムボートを車に積み込み(コレは中高生の頃には無かった)あちこち探り歩いたが、その中でも宮崎県小林市にある綾南ダムが特に気に入った。

その昔、買ったばかりのベイトタックルにジェリーワーム等をぶら下げて釣り歩いた地元のダムに似ている。
かつて、険しい山中を踏破し、蜘蛛の巣を払いながら辿り着いたあの入江、くねくねと湖水が入り組む畔には、
赤茶けた地層がくっきりと水平に続いている。なんだか、地球じゃないような印象すら受けた。
その入り江を初めて見つけた時には、ダイワのバスハンターDRで良い釣りが出来た。
以後、その入り江を「火星ワンド」と名付けてよく通ったものだ。

翻って現在、宮崎の綾南ダムにゴムボートを浮かべた時に一目で気に入った。
火星ワンドは赤土だったが、ここの地層は白い。色味的には土星の縞模様を連想させた。

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綾南ダムには、点々とこんな地形があり、特別変わった場所ではなかったのだが、綾南ダムで唯一バスを釣り上げることが出来たこのワンドを「土星ワンド」と名付けて帰った。

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その半月後の10月13日、今度は小林市の岩瀬ダムを攻めてやろうと再び宮崎を訪れてみた。
ゴムボートは修理に出しているので、岸から釣るつもりである。
しかし、当の岩瀬ダムは一面をウオーターレタスという巨大な浮草に覆われて釣りができる状態ではなかった。
岸からでも狙えるという条件で選んだ岩瀬ダムがダメ、近くに知っている釣り場は綾南ダムしかない。
しかし、綾南ダムは地形が険しく、岸からポイントへアクセスできる徒歩ルートがほぼ無い。しかも綾南ダムはバスの生息密度が低く、どっちかというと「釣れない」事で知られたダムである。

急いで携帯電話を取り出し、衛星画像を映し出す。
釣れるタイミングと場所が判明しているのは土星ワンドだけである。徒歩でアクセスできるような道は無論ない。出来るだけ近くまで行けるルートは無いかと血眼で探すと、直近の岬に小さな広場があるのが見えた。
いや、広場であるかどうかすら怪しい、単なるドットの滲み程度にも見えるが…行くしかない。

かくして、落石をどけ、倒木をよけながら車を進め、なんとかその広場らしき場所に着く。携帯の位置情報でも確認できた。ここからアタック開始である。
衛星画像と位置情報から徒歩移動可能な経路を予測して進む。作業道はすぐに途切れ、藪の下に消えた。
尾根の頂上なら歩けると見込んで藪に入る、すぐに鹿が飛び出してきた。もはや秘境である。
地面をよく見ると、鹿が利用している獣道がうっすらと付いている。その一本を辿っていくと、やっと湖面が見えてきた。

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午後3時、ゆっくりしている時間は無い。今日は釣った魚を食材にしてキャンプすることにしている。
念のために持ってきた冷凍の鯉はまだカチカチで、他の食材は、僅かな野菜しかない。
ある意味サバイバル釣行だ。

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この湖にはおそらく、まだワカサギが居る。
以前は定期的に放流されていたらしい。
今は放置されるばかりとなった漁船や水上コテージが往時を思い起こさせる。
ワカサギという奴は捉えどころのない生態をしていて、湖産になった時点で釣れるサイズまで育つ場合もあるが、殆どの場合チリメンジャコのサイズで野生化してしまい、バスマンを困らせる悩みの種となる。
スーパーマイクロベイトとなったワカサギの群れに着いているバスはストラクチャーに殆ど付かず、これをルアーで釣るのは至難の業となるのだ。

チャンスがあるとすれば日の入り直前、ターゲットは特別変わり者の奴、いうなればボッチ系の魚を狙うしかない。他の子達がストラクチャーに着く習性を捨て、早々に回遊生活に完全適応した後でも、うじうじと物陰に隠れて獲物を待ち伏せしてる時代遅れの奴…

そう、レトロ釣具をわざわざ買い集め、ボートも出さずにここまで来る、自分のような時代遅れの変わり者を相手にすればいいのである。

「ますます以って良いではないか!」

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午後5時、秋の夕暮れは早い。風は止み、空に月が輝き始める頃、小さな小さなワカサギ達が水面に波紋を広げ始める。岸際でちょろちょろとケタバスもはしゃぎ始めた。

「そろそろだな」

ラバージグを自作クランクベイトに結び替えた。
暗くはなったが、水面の反射は却って少なくなり、水も澄んでいる。
湖底の岩や、水中地形もおぼろげながら見える。
崖崩れで出来た地形だろうか?水中に岬状の地形が伸びているので、そこにクランクベイトを潜らせて、リップで湖底を引っ搔いてみる。

3投目でゴツゴツという手応えが急にモゴモゴに変わり、遂にグイグイと引き始めた。

「来たぞ!」
まあまあ強めにドラグを締めたリールから糸をズズッと引き出された。こいつは大きいかもしれん!
深みへ突っ込もうとして竿の反発力に突進を止められたバスは、今度は水面に躍り出てきた。
ガボガボと大口開けながら顔を振り、ルアーを振りほどこうとしたが、その勢いを利用して魚を一気に引きずり上げる。

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まあまあ大きい…40㎝チョイぐらいだろうか?魚体は美しく力は強い、ナイスバスである。
そして、ブリブリと美肉を蓄えたマッチョ体形、最高である。

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再び鹿の足跡を辿って車に戻る。
空に月、辺り一面からコオロギの声、遠くで鹿も叫んだ。最高の夜ではないか。
この場所を「月の広場」と名付けてその日はキャンプ地に向かった。

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テントを張り、バスの清蒸鮮魚が出来る頃には、すっかり夜が更けてしまった。清酒八海山で祝杯を挙げるから、もう明日の釣行は遅出確定である。
それもいいだろう、何しろ魚は大きく、明日食べる分も十分にある。明日は別に釣れなくともよいのだ。

翌朝遅く、通り雨の音に気が付いて目が覚める。
もう行先は決まっているから慌てる必要はない、ゆっくりと昼過ぎまでキャンプ地で過ごし、午後から月の広場に直行した。

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日の入り前まで釣れないのは分かっている。適当に遠投してワームをズル引きしていると、視線の先に長々と横たわる岬を見つけた。

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あれは、ゴムボートを出したときに良型をバラしたポイントだ、遠目には険しい地形に見えない。
さりとて、ルート開拓している時間的な余裕はそれほどない、どうするか…

結局、携帯電話を取り出し、衛星画像からルートを探る。
針葉樹ばかりが生えている場所は人工林だ、作業道跡が残っているかもしれない。
針葉樹林帯と稜線が被っているようなところは人間ばかりでなく鹿も頻繁に歩いている筈だ。  

行くことにした。

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地形が緩やかだからと言って道があるわけではない。
野生化したシソが生えているところはおそらく人の生活跡だろうと想像して草むらに入る。
もはや、特殊部隊の偵察と変わりない。
服は汚れ破れ程度の事は当たり前なので、サバゲ用品の中から引っこ抜いてきた迷彩服。ブーニーハットを被り、ルアーは弾嚢に入っている。知らない人が見たらレンジャーの訓練と思うかもしれない。

行きに一時間、帰りに二時間を見込んでいたが、ここは頻繁に鹿が利用しているらしく、歩きやすい場所の若木が喰われていて、それを辿ること30分で水面が見えてきた。

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時刻は午後5時前、ちょうどいい時間である、三十分で着けたこの場所を三十路岬と名付けてタックルをセットした。

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時間はあまりない、ラバージグで地形を探り、時を待つ。
太陽が稜線を照らし、湖面に山の影が落ちる、風が止み、ワカサギの群れが細波を立てた。

自作クランクベイトに結び替えて、昨日と同じように水中岬をリップで引っ掻くと、すぐにモゴモゴと反応があった。巻きアワセするとすぐにバスがバチャバチャと水面を割る。

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マッチョでも良型でもないが、今日はこれで満足した。

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三十路岬に日が沈む、帰り道に迷う心配はない。
鹿の踏み跡を辿り、尾根を伝って20分ほどで車の場所まで戻ることが出来た。

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キャンプ地に戻ったら宴の開始である。
ラバジに掛かってきた鯉は冷凍状態で持ってきてある、地元で買った野菜と共に鍋物にする。

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鍋が出来るまでの間、バスの切り身を唐揚げにする。
揚げたてをつまみながらウィスキーをロックでチビリ。

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バス、釣れるか釣れないかで言えば、まあ、釣れていない。

数日かけて車やゴムボート、GPS、衛星画像による上空からの偵察まで駆使してこのキャッチ数は貧果と言うしかない。
しかし、心が豊かになればそれでいい、釣りなんてそんなもんである。
バスフィッシングは、「そんなもんでいい釣り」の最たるものだと思っている。

第二次バスブームの末期、トーナメントアングラーが「10匹ぐらいしか釣れない、ダメな釣り場だ」というのを聞き、「バスを食うなんて人間のやることじゃない」などと言う言葉を耳にし、なんだか裏切られたような騙されたような気になって自然にバスフィッシングから遠ざかっていた。

第一次バスブームが来ていた子供の頃、「食味が良い」とか「数じゃない、釣りのプロセスすべてを楽しむんだ」等という言葉に惹かれてバスフィッシングの世界に入り込んだ。

今は一周回って、元々の「数でなく釣れるまでのプロセスを楽しむ釣り」に戻っている。

トーナメントアングラーにはトーナメントアングラーの、バスを大事に思う人には、その人の思いや立場があろう。
歴史は輪廻のように勝手に回り続けている、それについてあれこれ言っても一部正解で、他方では大間違いなのだろう。

考えてもしょうがないから、意見するのは止める。

近くで鹿が叫んだ。
振り向けば白い月、たなびく霧に黒い山。
ウィスキーが空になったところで寝袋にもぐる。
明日はもう釣らなくてもいい、昼まで寝ていよう。

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妖怪熊河童

熊本市在住。自作ルアーでバス、シーバス、山女魚など、幅広く釣っています。
バルサで作る自作プラグだけでなく、メタルジグも試作中。
一時期、職業ルアービルダーを目指しましたが、絶賛挫折中。
放置中の自作ルアー販売サイト有り。
フィッシングライターにも触手を伸ばすが、これもいつまで続くやら?
座右の銘「明日から本気出す」

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