- 2018-3-1
- ブラックバス注目記事
- 妖怪熊河童
私は毎年、春になると自作ミノーを持ってバスフィッシングに出掛けることにしている。
シーズンインの目安として最も分かり易いのは今年初めての南風、いわゆる春一番であるが、そのかなり前、梅の開花もシーズン入りの目安になる。
梅の花開くとき、時を同じくしてバス達も産卵を意識した行動をとるようになり、次第に浅場へと行動範囲を広げてゆく。
2月中旬の事、三時過ぎに仕事が終わり、「さて、そろそろか」と庭の梅の木を見に行く。大半の蕾は固く閉じたままであったが、その中に一点、紅い花一輪を見付けることが出来た。
「よし、今日は一つ、行ってみますか」
熊本市からほど近い萩尾大溜池は、熊本では最も知られたバスポンドである。里山を流れる小川をせき止めた典型的な農業用溜池であり、冬の間は半分ほどの水位に落とすのでポイントは全て知られている。
情報量が多いので、その点では手軽な釣り場であるが、それ故に狙う人もピンポイントで好場を直撃してくるので、熊本県では最も魚がスレている釣り場でもある。
この場所を選んだのは他でもない、有望な釣り場の中で家から一番近かったからである。午後5時、暮れかけた池に車を寄せると、既に何人かのバサーが来ているのが見えた。
最初のポイントは北ワンドを選んだ。大して日当たりが良い訳ではない。しかも浅い。でも、よーく注意して流れ込みの泥濘を見れば分かるが、ここには真冬でも青々とした新鮮な草が点々とみられる。ここだけは湧き水の影響で水温が少しだけ高いのだ。
道具は、思い付きで突然出掛けたので、バス専用というものは持っていない。車に積みっぱなしだったアジング用タックルに、渓流用スローシンキングミノー。
ミノーは自作のもので、一応早春のバスにも流用できるように作ってある。多分、バス用のサスペンドシャッドには負けるが、毎年これで不自由ない程度には釣れている。
自作ミノーを水面に落とし、沈下速度をチェックしてみる。バルサの木で出来たものだから、個体差が結構あるのだ。ミノーは秒間5cm程度のスピードで沈み、そのまま横に引くと、ユルユルと気だるげに身をよじった。ルアーはこれでいいだろう。
小さな流れ込みのチャネルや駆け上がりを手早く探ってゆく。時間はあまりない。反応が有った場所で対応を考えるつもりで上流側へどんどん釣り進んで行く。
やがて、ベイトタックルとスピニングタックルを携えた先行者さんに出会った。「どうですか?」お決まりの挨拶にその人は「増水でいつもの場所に入れず、今日はまだ釣れていない」と答えた。
タックルに付いていたルアーは小さなソフトルアーとラバージグ。これだけでこの日の釣りを継続するのに十分な情報が得られた。
先行者さんは、冬の間釣れていた場所に行こうとしたが、増水で行けなかったという。これは、この池では春パターンへの移行の兆候だ。そして、深場狙いの釣りが当たらなかったなら、いよいよ春のサスペンドミノーのパターン開幕が濃厚と思える。
あとは、ミノーをどう動かすかだ。
魚の活性が高い時と極端に低い時は、ミノーを弾くように動かして、長いポーズを入れる。早春は大体これで当たる。しかし、冬パターンを引きずっている時は、ダラダラと遅い速度で1mほど引いてから短いポーズを入れる方が釣れる。どっちが良いかは…正直、やってみないと分からない。
ミノーを早く引いたり、遅く引いたりと色々やりながら、とうとうメイン インレットまで来てしまった。踝までしかない流れを渡り、対岸を今度は下流へ向かって探っていく。足元にはシジミやタニシ、ヌマガイの殻が見られ、鯉が数匹ずつたむろして水面を揺らしている。釣れる気配は有るのだが…
夕日は堰堤の向こうに沈み、あと少しで夜の帳に包まれる。とうとう北ワンドの出口まで来てしまったが未だアタリは来ない。
「ここがラストチャンスか」
やはり、春パターンへの移行には早すぎたのか?今から根魚用のソフトルアーを車に取りに行っている暇はない。春の訪れを信じて、ミノーを倒木と岸の間に投じた。
ルアーが立てた波紋が消えるのを待ってからワンアクション。ミノーのウォブリングがロッドティップを震わせる。「今ので魚がルアーを見た筈」(と、信じる)
4~5秒待って、更にワンアクション、「来てくれ…」
鏡のような水面には夕日の名残が写り込み、ラインが作り出した細波を金色に染める。
あとワンアクション、「これが最後だ…」
その時、ロッドティップに微かな重みが乗る。ショックで驚かさないように気を付けて巻きアワセを入れると、ロッドにズシリと生命感ある重みが乗った!
ここからが難しい。きっと掛りは浅い。早春のファーストバスは今まで高確率でバラシている。しかし、これはどうしても獲りたい。
ドラグをわざと緩めて、ラインテンションが急変しないようにする。大した大きさの魚じゃない、しかし、この日最初で最後のこのチャンスをどうしてもものにしたかった。
糸を巻いては出されのスリリングなやり取りが続いた後、寄ってきた魚の下顎に慎重に手を掛け、水面から抜き上げた。
30cmチョイだろうか、この池のレギュラーサイズである。心配していたほど掛かりは浅くなく、自作ミノーは、バスの口の中にしっかりと咥えられていた。
ナイフで手早くバスをシメ、大将に電話を入れる。
「例の奴、釣れたから、今から行きますよ!」
熊本市中心部、東銀座通りにある食処花樹へ駆け込む。今日はこいつで祝杯を挙げる事にしよう。
▲ バスの天ぷら チリソース和え
▲ バスのアラ煮物
▲ 皮の唐揚げ&塩焼き
▲ ブラックバス創作料理