クロコダイルティースとワニ革のバンドを巻いたフェルトハット。
カッコいいと思いませんか?
トップウォーター・プラッガーとか、本流や湖のトラウトを狙う大物指向のアングラーとかに人気があります。
特に、「則さん」こと、ザウルス 故・則 弘祐氏の釣りスタイルを知るかたであれば、氏の影響も受けているかもしれません。
僕(編集部)も、帽子を新調しようと思いたった時、そういうハットが欲しいと思いました。
ただ、このご時世、なかなかうまくいかない。
野生動植物の保護を目的としたワシントン条約はもとより、「大体こういうのって、倫理的にもどうなの?」なんて声まで聞こえてくる昨今。
フランスの、有名ファッションブランドなどでは、「ワニやヘビなどの革を、バッグや靴、衣類などのマテリアルとして使わない」なんていう方針を打ち立てているところまである。
で、写真のハット。良く見ると何だかすごく変?!
実は、これ、ワニ革もワニの牙も使っていません。
詳細は後回しにするとして、今回は少し帽子の話です。
現在の日本国内において、クロコダイルの牙がズラリと並んだカッコいいバンドを巻いたハットを入手することは、かなり困難と言っていいし、仮にあっても、価格的には高価なものとなってしまいます。
在庫の消費はともかくとして、新規製品の生産や輸入は限定的になっているのが実情です。
バンドを巻くハット自体のほうも、オーストラリアの老舗、「アクーブラ社」のラビットファーを使用したフェルトハットなどは、秋冬シーズンのイメージが強い一般的なフェルトハットとは一線を画し、オールシーズン快適に使用できるだけでなく、アングラーのハートをくすぐる素晴らしいテイストと機能を持ち合わせてはいるけれど、こちらもやはり、かなり希少。
だから、少なくとも僕にとって、これらは全て“憧れの品”といったところです。
それに、自分のフィッシングスキルにそぐわないような、ものすごいオーラを放ったハットをアタマの上に乗せていたら、なんだかソワソワして釣りどころではなくなってしまうかもしれない。
もう少しカジュアルで、でもカッコいい帽子はないだろうか?
インディ・ジョーンズ・ハットや、フェドーラ帽、カウボーイハットといった「中折れ帽」のテイストを基本に据えつつ、少し頭をひねった結果、思い出したのは、フライフィッシングを題材にした映画、「リバー・ランズ・スルー・イット」の中で、ブラッドピットがかぶっていたハット。
ブラピ演じるマクリーン家の次男、「ポール」のハットは実にカッコいい。
撮影では先ほど触れた、「アクーブラハット」も使用されていたという噂もあるけれど、昔のアメリカを背景とした映画だから、設定的には「ステットソン」のハットなのでしょうか? もしかすると、本来は、とても高級品だったのかもしれないけれど、ポールのハットはというと、繰り返される釣りにより無理やりヘビーデューティーを強いられ、擦り切れて、もともとは巻かれていたと思われるリボン(ハットバンド)も取れて、その跡と縫い目だけが薄っすらと見えている。
だから、けっしてキレイなハットとは言えない。
で、取れてしまったリボンの代わりに、帽子の周りをぐるりと彩るのは大きなフライたち。
ホームリバーを知り尽くすポールは、本当に必要なフライだけをハットに直接引っ掛けて、フライボックスもフライパッチも持ち歩くわけではないのです。
ただ、これらのフライは無造作に引っ掛けられている訳ではなくて、比較的等間隔に整然と並んでいるから、多少のオシャレごころはあるようだけれど、「道具としてのハット」の、そのさりげなさが、気取りのない、「実用の美」を生み出している訳です。
まぁ、ブラピがかぶれば、なんでもカッコ良くなってしまう説はありますが、とりあえずそんな「実用的な道具の要素」をハットに付加しつつ、多少のオシャレごごろも感じさせる、そんなハットをかぶりたい。そう思うようになりました。
で、ようやく写真のハットです。
やはりフェルトハットですが、こちらは秋冬もののソフトハット。
とりあえずボロボロになることが前提の、リーズナブルなものです。
そして、ハットバンドの代わりとしたのは、「自在金具」。
そう、キャンプで、テントやタープの張り綱、細引きなどにテンションを与えるための、あのアルミの金具です。
この金具、必要となる細引きなどに、あらかじめ取り付けて準備さえしておけば、基本それで充分な場合が多いのですが、それ故、いざ「足りない!もっと必要!」となると、今度は「あれ!?まだ予備が何処にあると思うんだけど、、」などと、キャンプサイトでガサガサ、ゴソゴソと始まってしまう。
ということで、ブラピのフライの代わりとなる「道具の要素」として、ハットには「自在金具」をストックしておくことにしました。
ブラックとシルバーの自在金具に、ワックスコード(ポリエステル素材に蝋引き加工した紐)を通してハットの後ろ側で無造作に結わいた、お手製のハットバンドです。
雷がとても心配な気もしますが、もう金具を失くしたり、探したりといったことからは解放されそうです。
ワニ革の、あの極端な凹凸感をイメージして、金具は裏表を交互に並べてみました。
ただ、どうしてもフライのような華やかさには欠けるので、残念ながら「実用の美」というには程遠かったし、オシャレな感じにするにしても、やはり多少の装飾は必要と思えてきました。
そこで「クロコダイル・テイスト」を増強すべく、クロコダイルティースの代わりを探してみることに。
そして使用したのが、「こはぜ」。
もちろん「ワニの牙」ではありません。
「帙を繙く(ちつをひもとく)」という言葉があります。
これは、「書物を開いて読む」つまり、「本を読む」ことと同義です。
「帙」とは、和本などの書物を保護するために包む覆いのことで、その「止め具」として使用されるものが「こはぜ」というパーツです。
「笹こはぜ」「笹止め」、他にも「爪」とか、単に「こはぜ」などと呼ばれるようです。
このパーツ、シンプルですが、変わったマテリアルを使用して工夫を凝らした、意匠的にも味わいの深い、美しいものも存在します。
だから、正当な使われ方がされているぶんには、間違いなく、そこに「実用の美」があります。
実際には、「帙」以外にも、色々なものの止め具として利用されていて、古い話になりますが、ザウルスの「10th アニバーサリーBOX」という、限定品のトップウォータープラグのセットBOXの蓋の止め具としても、プラスチック製のとても小さなタイプのものが使用されていたので、「あぁ、アレのことか!」と、おわかりになるかたもきっといらっしゃるでしょう。
正面の2つが象牙製。
もう僅かしか残っていないという、在庫のマテリアルから、ひとつひとつ削りだされたものです。
そして残りのものは牛骨から作られています。
これらのパーツを、クロコダイルティースに見立てて、ケブラー繊維の紐でワックスコードに括り付けてあります。
もし、シェル・スプーン等を自作されるかたならば、ご自身で「夜光貝」や「白蝶貝」などから「牙」を削り出してみるのも楽しいかもしれません。
僕の帽子は、これで完成です。
当初に目的としていた「さりげなさ」は犠牲となった感が否めませんが、「趣味の工作!」みたいな感じだから、「オーラ少な目」のハットにはなったのではないでしょうか。
これまでは、フィルソンのオイルドハットを愛用していて、すでに、かなりいい味わいが出てきていているのに対し、やはり真新しい帽子というのは、どこか少し照れ臭いですが、それでも、フィッシング&キャンピングで早速使用していきたいと思っています。
あっ!そうそう、ハットに付けた「自在金具」ですが、こいつの出番は、もう時間の問題でしょう。
ただ、「こはぜ」のほうはというと、こちらは単なる飾りです。さて、何かに活用できるでしょうか?
万一、この「こはぜ」が僕のハットから取り外されるようなシチュエーションが訪れたのなら、その時はきっと、漫画「ジョジョの・・」にある「ヘブンズ・ドアー」のように、僕の頭の中の「帙」は見事に繙かれ、「実は、釣り以外のことは何も考えていない人間」であったことが露呈してしまうかもしれません。 なんて。
おまけ:
こちらは、リア・ビュー。
アルミ製の自在金具によって適度な重さが生じているので、帽子が風に飛ばされるリスクは低いかもしれません。
でも、万全を期して、「キャップストッパー」も用意しました。
「フォックスファイヤー」のストッパーで、アクリル製のフェイクレザーコードに水牛のビーズが通してあります。 今回のハットのテイストと良く合いそうで、ショップで見つけるなり迷わず入手したお気に入りです。
(ア)